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2004/08/03

船乗り言葉

先ずは「船長」、小生の船長時代は乗組員からいろいろな呼び方をされていました。一般的な(常識的な?)乗組員からは「キャプテン!」「船長!」でしたが、昔気質の歳とった連中やその筋系の若い連中からは「親父っさん!」(これを陸に上がっても使われるときはホント迷惑しました)、スペインに行くと「カピタン!」、ドック中最も慣れ親しんだ清水の街のお姉さん方は「池ちゃ~ん!」でしたけど。。。
 一等航海士は「チーフオフィサー」が訛って「チョッサー!」、甲板長は「ボースン!」、繰機長は「ナンバーワンオイラー」が訛って「ナンバン!」、通信長は「局さん!」等々一般セーラー(甲板員)、オイラー(機関員)以外は役職の通称名で呼ぶのが習慣でした。小生が船乗りの仲間入りをして最初に耳にした船乗り言葉は「カタフリ」でした。同じワッチ開けのセーラーから「たまには俺達の部屋にカタフリにおいでよ」と言われ、何を振るんだろう?と思ったら「カタフリ」とは陸の「油を売る」に似た意味で「雑談をする」の意味でした!
 面白いものでは「ガンチョ」と言う言葉も良く皆さん使っていました。スペインのラスパルマスというカナリヤ諸島にある港町が当時の日の丸艦隊(日本の遠洋トロール船隊)の海外最大の基地であったことからスペイン語が英語より重要視されていたこともありスペイン語の隠語が多く使われていました。「ガンチョ」とは「盗む」と言う意味で盗難品の市場のことを「ガンチョ市場」と呼んでいたり、領海侵犯をして操業することを「ガンチョ曳き」と呼んだりしていました。
 ブリッジでの操舵命令は全て英語です。右一杯に舵を切る時は「ハードスタボード!」、左に少し(5度程度)舵を切るときは「ポートイージー!」、舵中央の時は「ミジップ!」、現進路を保てと言うときは「ステディー!」と言う具合にキャプテンが号令をかけると舵を握っている操舵手(クオーターマスター)が復唱して「ハードポートサー!」と言うように語尾に「サー」を付けて応えます。始めての港に入港するときはパイロット(水先案内人)が乗船しキャプテンの代役をします。ニューヨークに始めて入港したとき年輩のアメリカのパイロットが乗船したときのこと、あまりの早口に何度も「ワンスモープリーズ!」を繰り返していたら突然「面舵一杯~!」とか「ヨーソロー」とか昔の日本の船乗り用語が飛び出てきてびっくりしたことがあります。面舵は右、取り舵は左、ヨーソローは「宜しく候」の略語で今の進路を保てと言う意味です。我が社も「全速前進、ヨーソロー!」で行きたいものでね!