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2007/02/19

船火事

捕鯨母船「日新丸」の船火事のニュースが流れ一週間、その後の安否が気遣われるが、、、。15年前小生も初めて船火事を経験した。ベーリング海トライアングル(アメリカとソ連の領海200海里で囲まれた公海)で発生したのであるが、大時化の洋上で救命ボートに乗り移ることさえ絶望的な状況の中、必死の消火活動の結果無事アリューシャン列島の西端に位置するアッツ島にアンカーを降ろし事なきを得た。ほぼ鎮火したとの判断で一気に内地に向け航走を開始したが4昼夜に及ぶ消火活動中4~5名が一酸化炭素中毒で倒れるほど危機的な状況にあったにもかかわらず犠牲者を一人も出さなかったのが不幸中の幸いであった。今回は不幸にも若い乗組員1名が尊い命を失ってしまった。その何週間か前アメリカのグリンピースが日新丸にむけ発煙筒を打ち込んだニュースを見たが生活を懸け、命を懸けて働いてきた若き乗組員の死を彼らはどのように受け止めるのだろうかと身勝手な彼らの行動に憤りを覚えてならない。
嘗てはマッコウクジラの油が欲しくて乱獲をしていたアメリカ人が今は捕鯨反対の旗頭、石油がエネルギーの主役になると油田を持つ国々への軍事介入を平然とやる、しかも自国の資源(アラスカ油田)は最後の手段として温存してである。話が横道にそれてしまったが何故危機管理の行き届いた船内で船火事が起きるのか?陸の皆さんには想像出来ないであろうが「事業船」の持つ危険度をこの際是非理解していただきたい。事業船と言うのは船の中に生産工場を持った動く倉庫であり動く工場であると言うこと。従って操業海域への往復航時は船内の改造や操業準備のためあちらこちらで作業が行われる。当然溶接など火気を頻繁に使用するのであるが、船内は全てペンキで塗装されているうえ機器類は油まみれ、さらにはカートンケース(段ボール箱)など燃える材料に取り囲まれた環境下での作業を強いられるわけである。更には北半球では低気圧の墓場と言われるベーリング海、南半球では暴風圏と言う一年中時化の洋上での作業である。尚かつ「狭い!」場所での作業、安全を確保する場所さえままならないのである。船底には何千㍑もの燃料(重油)を抱えていることを思えば逃げ場のある陸上の火災とは危険度は雲泥の差である。今回の事故で亡くなった若き「sea man」に心から哀悼の意を表します。

2007/02/13

救命筏

安否が気遣われていた都井岬沖での海難事故は3人全員が無事救出と言うニュースを聞き安堵した。今回も又大型船による「当て逃げ」の可能性が高いと言うことで船乗りOBとしてはやるせない気持ちが強い。自動車運搬船やトロール船はブリッジが船体の前方にあり比較的進行方向の視界が開けているがタンカーや鉱石運搬船など大型の船舶の大半はブリッジが船体後方に位置しているため視認できる前方の視界は極めて悪いのが普通である。特に時化の海上では白波が立ち小型の白い船体は非常に見えにくいものである。レーダーで捕捉していた小型船舶が波浪によりレーダー画面から消えることは多々あるため当直士官は細心の注意が必要である。操業中、探索中の小型漁船は頻繁に針路を変更するため尚更追跡が難しいものである。船体の中央にブリッジがあるのは航空母艦など軍艦に限られているが、視界不良時に船の長さが100メートル以上有る船首又は船尾ブリッジでは自船の船首又は船尾さえ視認できないのが普通であることからも視認による航海には余程の注意が必要とされることが理解できるのではなかろうか。今回は「救命筏」の搭載が運命を左右した。船舶にはその船の航行区域、搭載人員などにより「救命筏」の大きさや数等の搭載が義務付けされている。幸運にも搭載義務の無かった今回の小型漁船には自主的に小型の救命筏を装備していたことが奇跡に近い今回の救出劇に繋がった。救命筏は手動でも船体から落下させることが出来るが万一沈没しても水圧で自動的に船体から切り離され海上にポッカリと浮かぶようになっている。日本近海であれば寒さや怪我さえなければ自動発信器(遭難信号発信装置)や発煙筒、レーダー反射板などの装備により救出される可能性は極めて高いと言えるほど性能・装備は完璧である。中には非常食の乾パン、飲料水、キャンバス性のバケツ、釣り道具、遭難の手引き書等々がびっしり装備されている。客船等のアッパーデッキ両舷に整然と並ぶ救命艇(ライフボート)と「救命筏」の唯一違うところは推進器があるかないかである。ひたすら波間に漂いながら救助を待った3人に心からご苦労様、おめでとうと言いたい。