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2007/02/13

救命筏

安否が気遣われていた都井岬沖での海難事故は3人全員が無事救出と言うニュースを聞き安堵した。今回も又大型船による「当て逃げ」の可能性が高いと言うことで船乗りOBとしてはやるせない気持ちが強い。自動車運搬船やトロール船はブリッジが船体の前方にあり比較的進行方向の視界が開けているがタンカーや鉱石運搬船など大型の船舶の大半はブリッジが船体後方に位置しているため視認できる前方の視界は極めて悪いのが普通である。特に時化の海上では白波が立ち小型の白い船体は非常に見えにくいものである。レーダーで捕捉していた小型船舶が波浪によりレーダー画面から消えることは多々あるため当直士官は細心の注意が必要である。操業中、探索中の小型漁船は頻繁に針路を変更するため尚更追跡が難しいものである。船体の中央にブリッジがあるのは航空母艦など軍艦に限られているが、視界不良時に船の長さが100メートル以上有る船首又は船尾ブリッジでは自船の船首又は船尾さえ視認できないのが普通であることからも視認による航海には余程の注意が必要とされることが理解できるのではなかろうか。今回は「救命筏」の搭載が運命を左右した。船舶にはその船の航行区域、搭載人員などにより「救命筏」の大きさや数等の搭載が義務付けされている。幸運にも搭載義務の無かった今回の小型漁船には自主的に小型の救命筏を装備していたことが奇跡に近い今回の救出劇に繋がった。救命筏は手動でも船体から落下させることが出来るが万一沈没しても水圧で自動的に船体から切り離され海上にポッカリと浮かぶようになっている。日本近海であれば寒さや怪我さえなければ自動発信器(遭難信号発信装置)や発煙筒、レーダー反射板などの装備により救出される可能性は極めて高いと言えるほど性能・装備は完璧である。中には非常食の乾パン、飲料水、キャンバス性のバケツ、釣り道具、遭難の手引き書等々がびっしり装備されている。客船等のアッパーデッキ両舷に整然と並ぶ救命艇(ライフボート)と「救命筏」の唯一違うところは推進器があるかないかである。ひたすら波間に漂いながら救助を待った3人に心からご苦労様、おめでとうと言いたい。