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2005/11/01

海難事故

ここ数日、北海道沖で起きた漁船の沈没事故がニュースで取り上げられていますが漸く事故の真相がはっきりしてきました。比較的凪ぎの洋上であの程度の船舶同士の衝突では少なくともブリッジにいた当直中の士官・ワッチ要員は衝突時の衝撃を感じるもので、この事件はあくまでも「当て逃げ事件」だと断定できます。360度海又海の洋上で何で船同士が衝突するのだろうと疑問を持つ方も多いと思いますが「好漁場」には多くの漁船が集中します。小生が学生時代経験した鮭鱒(サケマス)事業では日本の船団だけでも500隻近い船が回遊中のサケマスを追いかけるわけであの広いベーリング海が船だらけと言った感じになります。スケソウ鱈操業ではもっと狭い海域に何百隻ものトロール船が集まって操業します。レーダーの20マイルレンジ(約36キロ四方)に百隻近い船舶が映るほどで、レーダーを覗くととても怖くて操業など出来ないほどです。今回のように航路上に漁船群が居ると大型船はその避航に神経を使います。一隻づつ避けていたのでは大きなロスになるし、進路を大きく変針することもロスになります。早い時期から相手船との相対関係を割り出し最小限の避航で衝突を回避すべく針路・スピード調整を行う必要があり今回のイスラエル船籍の大型船の当直士官はその業務を怠ったと言うことです。もっとも東京湾の様に航路上に釣り客をたくさん乗せた遊漁船が我がもの顔で縦横無尽に走っているようなところではいちいち避航等しておれませんので「ぶつかっても知らんぞ~」と言う感じで汽笛を鳴らしながら決められた航路上を航行します。彼らも心得たもので衝突の危険が迫るギリギリのところで「サッ!」と逃げていきます。釣り客は一様に我々を「コノ~~」と言った感じで睨むのが通例ですが、、、。予備知識?としてお教えしますが船乗りの習性として「針路の変更(むやみに舵を切らない)」をしたがらない癖?があります。それと慣例として舵を握るのは操舵手で船長は勿論士官は舵を握らないという風習もあります。ケープタウンからニューヨークに向け大西洋を横断するような航海では、途中行き会う船舶もほとんど居ないことから当直中に悠々と食堂へ食事に降りてブリッジは無人と言う状態のことも度々?ありました。それほど海は広いな大きいな♪♪なんですが、私のような大ざっぱな人間がよくも四半世紀を無事故で過ごせたなあと改めて感じます。近頃ではレーダーも発達し相手船をインプットしておけば相手船の針路・速力・両船の最接近距離を自動的に算出してくれます。私が航海士の時代は相手船を時間をかけてプロッティングしチャート上で相手の動きを推測して衝突回避の動作をとるかどうかを判断していました。技術の進歩は目を見張りますが基本を忘れると今回のような事故に繋がることを現役の船乗りさんは肝に銘じるべきだと思います。